そうはうまく行きませんでした。

わたしはワクワクして時間の経つのを待ちます。そしてあと5分となったとき…

「えー、授業はこれで終わり。でもまだ休憩に行っちゃいかん。お前たちに少し話しがあるんだ。」

(なによ。これ以上なにがあるっていうの。バカ言わないで。)

「実はこの前の遠足での記念撮影の写真だが…おれの写真に落書きがされている。確かにおれはハゲている。しかしお前らの教師なんだ。さっきの態度といい、落書きといい、おれも堪忍袋の尾が切れた。…いったい誰が落書きしたんだ。加藤茶みたいにしやがって。…名乗り出なさい。それまで休憩には行かさんっ!」

私は血の気が引いてゆくのを感じた。こんなときに限ってどうしてそんな話…私はあきれて声も出ませんでした。

(どうして、どうしてなの。どうして私をいじめるの。)

いくら考えても分かりません。私はいつの間にか尿意が迫ってきているのを感じます。先ほどまでは予感状態でしたが、今は欲求となり、膀胱がキリキリと痛みます。

みんな黙っています。

キンコーン、カンコーン…

3時間目の終業のベルが鳴ります。しかし、それは私にとって無情に聞こえて来ました。だって先生が…先生のおかげでトイレへ行けないもん。

張り詰めた空気の中で、沈黙の状態が続きます。

「名乗り出なければ、休憩はなしだぞ。このままずっとこうやっているのか?」

それでも名乗り出る人はいません。

(お願い…誰でもいいから名乗り出て。お願いよ。)

いっそのこと私が名乗り出てもよかったんだけど、そんな勇気はもともと持ち合わせていません。みんなだってきっと休憩に行きたいはず。だから勇気ある男の子が名乗りを上げてくれるわ。私はそう期待してズキズキする下腹を気にしながら待ちました。

休憩はあっという間でした。でも私にはものすごく長く感じられました。

(ねえ、お願い。誰か…誰か…この地獄から救ってぇ!)

キンコーン、カンコーン…

無情にも始業のベルが鳴ります。「あ〜あ」というため息がみんなの口から漏れます。私にとっては「あ〜あ」どころじゃありません。目の前が真っ暗になりました。あと45分、絶対に我慢できません。おもらし、おもらし、そんな目に見えない声がどこからともなく聞こえてきます。

「先生、ぼくが落書きしました。」

沈黙を貫いて、男子の声が響きました。

高野くんと言って、学級委員をしている子です。彼は落書きなんて絶対するタイプじゃない。でもこんな窮地を彼は自分を犠牲にして救ってくれたんだわ。

(高野くん、ありがと、ありがとね。)

「なに?お前が落書き?…犯罪者をかばうのはよくないことだぞ、高野。」

「ぼくがやったんです。…こんなことしたって埒があかないじゃないですか。」

「だめだな。…ちゃんと名乗り出るまで、こうして続ける。」

(エロオヤジのバカ〜っ、最低〜っ、もう知らない…)

私は涙が滲んできました。先生がこんなに聞き分けがないなんて信じられませんでした。私は腿をぴっちり閉じて、ときおり机の下に膝をあてながら足を組んだりしていました。もうそうしなければおしっこ出ちゃいそうなの。じっとしたままでは我慢できないから、足を組んだり外したり、傍から見ればモゾモゾしていました。

そうやって1分ほど経ったとき…

「もういいよ。高野くん。…ぼくがやったんだ。」

下平くんと言って、悪戯ばかりしてる子です。普段は笑いながらとぼけている彼も疲れた顔で白状しました。

「やはりお前か。…よし、この時間が終わるまで廊下で立っとけ。」

(やっと、やっとおトイレ行ける。…下平くん白状してくれてありがと。)

 

私は先生の休憩の合図と一緒に腿を閉じながらダッシュでトイレに向かうつもりでした。でも信じられないんです。先生の言葉…

「お、もうこんな時間か。…休憩なんかしてる暇ないな。続いて数学の授業をはじめる。教科書とノートを出しなさい。」

これには生徒のみんなが怒り出しました。

「休憩くれよぉ!」

男子が大声で抗議します。しかし、先生は見向きもせず授業をすすめてゆきます。本来、数学は別の先生のはずでしたが、最近体調を崩して、担任の上原先生が代わりに引き受けているのです。先生の無視に生徒の一部は怒りをあらわに抗議します。

「なんだ、お前ら、そんなに休憩欲しいのか?」

「欲しいーっ!」

みんな口を揃えて訴えます。

「よし、5分だけだぞ。ただし、この部屋から外に出ちゃいかん。他の教室はまだ授業中だからな。」

「えーっ…」

みんなの口からため息が出ましたが仕方ありません。休憩をもらえるだけでもありがたく思え、という先生の態度でした。

トイレに行くのは今の機会しかありません。ガヤガヤしているこのときに…

私は立ち上がり、さっと教室を抜け出してトイレに行こうとしました。そのとき先客で教室を抜け出そうとした子がいました。

「おい、お前、何をやっている。外へは出るなと言ってあるだろう。こっちこい。」

渡辺くんという子でした。渡辺くんは先生の前に呼び出され、出席簿で頭をバシッと叩かれました。私は凍ってしまいました。できない。先生の目を盗んでトイレなんて行けない。ピッチリと太腿を閉じたまま、私は席に戻りました。おしっこしたい。もう時間がない。

(もしかすると私みたいにおしっこしたい人がいるかもしれない。その人がいてくれたら、私も後に続けでおしっこに行ける。誰か…誰か、お願い。)

そのとき一人の女の子が先生のところに向かいました。何やら耳打ちしています。

「何い、トイレぇ〜っ!!」

先生がトイレの部分をやたら強調して教室全体に響く声で言いました。

「もういやっ!あたし我慢する。」

先生のひどい仕打ちに池野さんという子は怒って自分の席に戻ってしまいました。そうです。だてにエロオヤジとあだ名されてはいません。先生はセクハラを平気でするんです。私も絶望です。こんなサイテー教師のクラスに当たってしまったことを猛烈に後悔しました。

「よし、休憩終わり。…教科書とノートを用意して。」

私は時計を見ました。あと35分です。秒になおせば、2100秒…数学の時間ですが、私にとってあと何秒かが重要なんです。…でもこのなの長すぎます。せめて1000秒…それなら…。

チッ、チッ、チッ…

私は秒針を一心不乱に凝視していました。涙が滲んできます。辛いのです。

1時間が過ぎたように感じました。でもまだ5分も経っていません。私はすでに限界に来ていました。スカートの上から割れ目に添って指をあてがいます。いくぶんかは楽になります。

(どうしよう。もう漏れちゃう。…膀胱が重い。おしっこしたいよぉ。おしっこぉ。おしっこしたい。おしっこぉ。おしっこさせて。)

もう頭はおしっこのことしかありません。指を割れ目にあてがっただけでは尿意を押さえきれないので上下に揺すります。変な感覚が襲ってきます。その変な感覚が少し尿意を押さえてくれるようです。

(そうだ。池野さん。彼女もおしっこ我慢してるんだ。彼女はどんな様子だろ。)

私の席は1番後ろから2番目、廊下側から2列目の席です。彼女は1番窓際の前から2列目です。だから彼女の様子は少しは分かります。どうやら窓の外を眺めてるようです。もしかしたらおしっこを我慢するために外を眺めているのかもしれませんが、私よりはまだ余裕がありそうです。

突然、強い尿意が襲って来ました。全身の力をこめて尿道括約筋に集中します。額からは脂汗が滲んできています。手で一生懸命お股を押さえて、目をつむります。

次に目を開けたとき、少し目まいがしました。目には星が飛んでいます。どれだけ頑張ったかが見てとれます。

時計を見ました。あと25分…秒にすると…もう計算できません。そんな余裕もないの。おしっこ、おしっこしたい。

(そうだ。…こんなに我慢するんなら先生に言っておトイレ行かせてもらおう。)

私はさっきの激烈な苦しみのため、恥をしのんで苦しみから脱出する決意をしました。

「せ、先生…」

私はお股を押さえていない方の手で手の平をかざしました。でも声も手も全く人に気付いてもらえるレベルではありません。みんな数学の問題を解くのに夢中です。わたしは何回も先生と叫びましたが、吐息がもれるレベルです。手も自分の頭より上にあがりません。

結局、私って臆病で恥ずかしがりなんです。このときはそんな自分を恨みました。どうしても言い出せないのです。

また尿意が襲ってきました。さっきと同じくらい凄まじい。私はさっきと同じように耐えました。目をつむると涙が出てきました。

(あっ、だめっ…)

私はとっさに股を押さえていない方の手をスカートの裾から突っ込み、パンティから直接割れ目の部分に指でギューッと押し込みました。

スカートの上からではもはや耐えられなかったからです。もし一瞬でも指を離すとおしっこがピューって出ちゃいます。膀胱がじんじんと痛み、すでにパンク寸前のところまで来ていることを知らせています。

おしっこの波が徐々に引いてゆきます。なんとか押さえ切れたものの、次の波が押し寄せればちょっと我慢できそうもありません。

私は遂に最終手段に出ることにしました。

 

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